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大阪高等裁判所 昭和40年(ネ)825号 判決 1965年10月26日

控訴人(附帯被控訴人) 奥山昇 外一名

被控訴人(附帯控訴人) 飛島土木株式会社 外一名

主文

一、原判決をつぎのとおり変更する。

被控訴人らは各自控訴人らに対し、いずれも金五六五、五九九円及びこれに対する昭和三三年四月六日から支払いずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。控訴人らのその余の請求を棄却する。

被控訴人らの附帯控訴はこれを棄却する。

二、訴訟費用は第一、二審を通じてこれを三分し、その一を控訴人らの、その余を被控訴人らの負担とする。

三、この判決は控訴人らの勝訴部分にかぎり、仮に執行することができる。

事実

控訴人ら代理人は、「原判決中控訴人ら敗訴部分を取り消す。被控訴人らは連帯して控訴人らに対し各金七〇〇、〇〇〇円とこれに対する昭和三三年四月六日からそれぞれ支払いずみまで年五分の割合による金員を支払いせよ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決と仮執行の宣言を求め、かつ被控訴人らの附帯控訴に対し「本件附帯控訴を棄却する、附帯控訴費用は附帯控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人ら代理人らは、「本件控訴を棄却する。」との判決を求め予備的附帯控訴として、控訴人らの得べかりし利益の喪失による損害賠償請求が理由ありとされるときは、原判決の慰藉料の支払を命じた部分の減額変更を求める旨申立てた。

当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出、援用、認否は、次に記載するほかは、原判決の事実摘示と同一(ただし原判決五枚目裏一一行目に焼えとあるのは燃えの誤記と認められるので、そのように訂正する。)であるから、ここに引用する。

(事実関係)

一、控訴人ら代理人の主張。

(一)  被控訴人山口兼治は、本件車を後退させる場合、自動車の直後に危険がないかどうかを細心の注意で確認し、後方を見透しできない場合には、降車などをして機宜の方法でその安全を確認しなければならない注意義務があるのに、これを怠つたばかりか、本件の場合、右後方をも十分注視していたなら被害者である訴外亡奥山奈緒美が本件車の後方に接近するのを発見できたのに、これをも怠り、警笛吹鳴その他の方法によつて附近の人に警戒を与えるべき注意義務にも違反して、その措置に出でないで、本件車の左斜後方にのみ気をとられ、真後方に危険がないものと軽信し、本件車を無名道路に後退させた結果、本件事故を惹起したもので、本件事故は、同被控訴人の重大ともいえる過失にもとづく。

(二)、右奥山奈緒美は、本件事故によつて、将来得べかりし利益として金一三三万七、八九三円を失なつた。控訴人らは同人の遺産相続人として、これを相続したので、本件で、控訴人らは、それぞれうち金五〇万円を被控訴人らに対し請求する。その計算関係は次のとおりである。

奥山奈緒美は、本件事故当時満五才の普通の健康体を有する女子であるところ、五才の女子の平均余命は、第一〇回生命表(昭和三〇年)によると、六六、四一才であるから、これを基準とするとき、同人は、二〇才から少なくとも五五才までは稼働可能である。女子であることから稼働期間を婚姻年令までとすることは、現今、婚姻後も共稼ぎする例が多くなつてきつつあることから根拠がない。しかして労働大臣官房労働統計調査部の調査資料によると、全産業女子労働者の平均月間給与は、

二〇才から二四才まで 金 八、六九〇円

二五才から二九才まで 金一一、二七七円

三〇才から三四才まで 金一一、四一五円

三五才から三九才まで 金一〇、五四〇円

四〇才から四九才まで 金一〇、四二九円

五〇才から五五才まで 金一〇、〇四三円

であるから、将来奥山奈緒美は、稼働により右の金額を下らない収入を得るものとしてよい。

ところで、同人の生活費をこれより控除すべきであるが、大阪市人事委員会の調査によると、昭和三三年三月当時、大阪市における一月の稼働独身者の生活費は一月金八、四五〇円であるから、これによつて、同人の二〇才から婚姻年令である二四才までの間の平均収入から、右生活費を控除して計算する。しかし、婚姻後である二五才からの生活費は、夫の扶養を受けるから、収入から控除すべきではない。したがつて、同人の得べかりし利益は、

(1)  二〇才から二四才までは、平均月収金八、六九〇円から生活費月金八、四五〇円を控除した金二四〇円、年間金二、八八〇円の五年分金一四、四〇〇円から中間利息(年五分)をホフマン式計算法によつて算出控除すると、金七、五八九円になる。

(2)  二五才から五五才までの三〇年間は、少なくとも月平均金一〇、〇〇〇円以上の収入があるので、これを基礎に三〇年間の収入は、金三六〇万円となる。これをホフマン式計算法によつて中間利息(年五分)を控除すると金一三三万〇、三〇四円になる。

(3)  右(1) と(2) の合計金一三三万七、八九三円が同人の得べかりし利益である。

(三)  控訴人らは、本件事故によつて合計金四一、三〇〇円の支出を余儀なくされた。これは、控訴人らが本件事故によつて被つた物的損害である。

(1)  金一二、〇〇〇円 葬儀読経など寺院への支払い分。

(2)  金二五、〇〇〇円 供花料として訴外丹後藤太郎への支払い分。

(3)  金三、三〇〇円 葬儀手伝人食事費として訴外重山栄作への支払い分。

(4)  金一、〇〇〇円 古荘病院への支払い分。

(四)  控訴人らは、いずれも相当程度の教育を受け、人柄は温厚誠実、家庭は円満であり、奥山奈緒美は、朗らかで、人に好かれる性質であつたため、控訴人らは、同人が幼稚園に入園するのを楽しみに、いつくしんできた。したがつて、控訴人らは、本件事故により、筆舌につくし得ない精神的苦痛を被つた。被控訴会社が資本金一三億二、〇〇〇万円の大会社であること、被控訴人山口兼治の本件事故は重大な過失によるものであることを考え併わせると、控訴人らは、それぞれ金五〇万円の支払いを受けて、右精神的苦痛を慰藉されるべきである。

(五)  被控訴会社は、トビ職人二名を本件事故現場近くの工事現場に運ぶため、被控訴人山口兼治をして、本件事故現場に最大大型車である本件車を乗り入れさせたもので、被控訴会社は、本件車に助手を同乗させなかつた点に、使用者としての監督不行届きの責を免れない。

二、被控訴人ら代理人らの主張。

(一)  被控訴人山口兼治には、本件事故の場合には、運転するダンプカーより降車する等の機宜の方法により、安全を確認すべき注意義務はない。控訴人らは、同被控訴人には左後方のみならず、右後方をも注視すべき義務があると主張しているが、本件車のようなダンプカーは、死角が大きいのであるから、そのように厳格なことをいうと、運転者は単独で後退運転が不可能になるといわなければならない。そのうえ、警笛吹鳴の義務は、危険を感じたときだけに吹鳴すべきもので、みだりに使用することは禁じられている。要するに、被控訴人山口兼治には、本件車を運転して後退するとき、後退直前に後方附近の様子を見届けるについて多少注意が足らなかつたのではないかと思われるが、後退時における運転方法そのものにはなんらの過失があるわけではない。したがつて、本件事故は不可抗力に近い事故といえる。

(二)  本件事故の被害者は五才の幼児であつて、かような幼児の将来得べかりし利益を的確に推認することはできない。仮りに算定可能としても、本件で、奥山奈緒美が、一生独身で就労するであろうとの格別の事情が認められないから、同人は適令期に当然婚姻するものと考えられる。婚姻後の共稼ぎは可能であるが、同人が果して将来共稼ぎをするかどうかは疑問である。けだし、女子が婚姻後共稼ぎをするのは比較的少ないし、それも殆んどは生活が豊かでないためである。ところが、控訴人らは、この点につき、「控訴人らの資力、社会的地位からして、同人が生存しておれば中流以上の生活をしたであらう。」と主張しているのであるから、なおさら、共稼ぎはありえない。そのうえ、控訴人らは奥山奈緒美を短期大学に入学させる予定であつたと主張しているところからして、同人が婚姻するまで、就労することもありえないといえる。けだし、短大卒業後、家庭でいわゆる花嫁修業をさせるのが、控訴人らの家庭の通例といえるからである。

(三)  本件事故の原因には、奥山奈緒美の過失もあつた。すなわち、被控訴人山口兼治が本件車を後退中、奥山奈緒美は不意に飛び出して転倒した結果、本件車の左後車輪に轢かれたのである。右は奥山奈緒美の過失である。しかして、過失相殺される被害者の過失は、必ずしも行為の責任を弁識する能力が必要ではなく、事理を弁識するに足る能力をそなえた被害者の不注意で十分であるところ、奥山奈緒美は五才であつて通常交通の危険について弁識があつたことは、控訴人らが、いつも自動車に気をつけるよう注意し、又同人が用心深い性格の子であつたと主張しているところから明らかである。

仮に、奥山奈緒美に過失がなかつたとしても、事理弁識能力のない者を独り交通の危険な道路上に放置していた控訴人らは、親として、著しく監護義務を怠つたものである。

そうであるから、本件の損害額を定めるについては、奥山奈緒美または控訴人らの右過失をしんしやくすべきであることはいうまでもない。

とくに原判決の認容した慰藉料請求額は多額に失する。右は奥山奈緒美の得べかりし利益の喪失による損害額の算定が不能であるとして、その損害賠償請求を排斥せざるを得なかつたことに基因するものと解してはじめて納得しうるところである。従つて、もし右の得べかりし利益の喪失による損害賠償請求が理由ありとされるときは、原判決の慰藉料請求を認容する部分の減額変更を求める。

(証拠関係)<省略>

理由

一、次の事実は当事者間に争いがない。

(一)  被控訴人山口兼治は、土建業を営む被控訴会社に雇われ自動車運転業務に従事しているものであるが、昭和三三年三月五日午後三時五五分頃、被控訴会社の事業の執行として被控訴会社住吉出張所所属ダンプカー(大一す三二五〇号ニツサン一九五七年式定員三名積載量五トン。以下本件車という)に同会社の鳶職人二名を乗車せしめてこれを運転して、添附図面<省略>の無名道路を焼芋屋台の辺まで乗り入れ、鳶職人らを下車させたが、同人らが北方の埋立地で会社用務をすませるのを待つて再び乗車させる必要があつたので、その待時間中に自動車の方向転換をしようと考え、まず、そこから大阪港線道路の車道まで本件車を後退させた。

(二)  被控訴人山口兼治は、そこから、誘導者による誘導なしに、また自ら下車して車体周辺を調査することもしないで、警笛も吹鳴しないまま、本件車を弥生市場方面に無名道路に入るべく後退させていつた。そして、本件事故現場(大阪市港区磯路町二番地先路上添付図面の×点)まで後退したとき、たまたま西方から東方へ進んできていた控訴人らの長女である訴外亡奥山奈緒美(昭和二七年五月二三日生)の顔面などを本件車の左後車輪で轢過し、同人は、頭蓋軟骨及び脳底骨折による脳挫滅を受けてその場で死亡した。

(三)  本件事故現場の模様は添付図面どおり(但し無名道路の幅員をのぞく)で、無名道路を北へ約六〇米行つたところに埋立工事現場があつた。

(四)  控訴人らは奥山奈緒美の父母であり、同女の死亡による相続に基き一切の権利義務を承継したものである。

二、本件事故について被控訴人山口兼治の過失の有無について。

(一)  前記争いのない事実や、成立に争いのない甲第一二号証の一、二第一三、一六号証、第二一号証の一、二、第二二号証の四、第二三、二四、二九号証の各二、原審と当審での証人満仲利雄同大星正子の各証言(証人満仲利雄の証言は原審第一回)当審での被控訴人山口兼治の本人尋問の結果の一部、原審と当審での検証の各結果及び弁論の全趣旨を総合すると次のことが認められる。

(1)  本件車は全長六米二〇糎、幅員二米二〇糎、荷台上縁までの高さ一米六八糎で、左右両側に後写鏡が、運転台にはその後部に覗き窓がある、右ハンドルの大型ダンプカーである。本件車の運転者が、左右後写鏡や覗き窓によつて左右後方を注視しても、本件車の構造上見透しの利かない死角部分ができ、右運転者には、とりわけ荷台上縁以下の低い部分が全く視野に入らない。

(2)  被控訴人山口兼治は、本件車を無名道路(幅員八、七米)の焼芋屋台の辺まで乗り入れ、それから後退して添付図面の(一)の位置で停車し、(二)のところまで前進した。当時ミヤタケ美粧院は建築工事中で板囲いがしてあつたので、同被控訴人は、その板囲いの前に南向けに本件車を停車させ、さきに降ろした職人の帰えりを待とうと考えた。そこで、同被控訴人は、(二)の位置から無名道路に本件車をバツクで乗り入れるにあたり、右のように(二)の位置まで事故なくくることができたので、本件車の後方は危険がないものと安易に判断し、誘導者の誘導がないばかりか、自ら下車して後部を確認することもせず、警笛を吹鳴するなどして自動車が後退することを後部の人車に注意せしめることをしないで、運転台の後部覗き窓から頭を左に回して左(東)の方を注視しながら、時速二、三粁で、ゆつくり後退をはじめ、約八米位後退して添付図面×点の位置辺りまでさがつた。同被控訴人が左側にだけ注意がいつたのは、さきにふれたとおり、本件車を無名道路の東側の板囲いの前に停車させようとしたからである。本件車をそのように運転して後退させると、同被控訴人の恰好では、右(西)側が全く見透しの利かない死角になるのに、同被控訴人はこのことを看過し、右(西)側の安全を確認する方策を何一つとらないままで本件車をさきのとおり後退させた。

(3)  このように同被控訴人が全く右側の注視を怠つていたとき、たまたま、奥山奈緒美は近所の遊び友達である訴外重山美和子方から自宅に帰えるべく、同人と二人連れ立つて西から東へ本件事故現場(添付図面の×点の箇所)にさしかかり、右板囲いの前に砂が置かれていたので、そこで二人で砂遊びをしようと相談し、二人はその方に気をとられ、本件車がゆつくり後退してくることには気がつかないでいた。

(4)  同被控訴人は右×点の辺まで後退したので、今度は右側のドアを開けて右側を注視しようとしたが、その時すでに遅く、本件事故現場に立つていた奥山奈緒美に本件車の左後車輪をあて、その場に同人を転倒させて轢過し(その時の本件車の位置は添付図面(三)のところ)、ようやく同図面(四)の辺りで停車した。

右認定に反する原審と当審(一部)での被控訴人山口兼治の本人尋問の結果は採用しないし、ほかに右認定の妨げとなる証拠はない。

(二)  さて本件車のような大型ダンプカーを運転して後退するには、その構造上見透しの利かない死角部分ができるのであるから、運転者は、その後部の安全を確認するため特別の注意を払うべく、誘導者の誘導に従うか、誘導者がないときは、左右の後写鏡と運転台後方の覗き窓によつて、車の後方及び左右の安全を確認しながら、少しづつ徐徐に後退しなければならず、その確認が十分得られないときは、警笛を吹鳴するなどして後部の人車に後退することを告げて注意を喚起するなどして事故の発生を未然に防止すべき注意義務があると解するのが相当である。

(三)  さきに認定した事実によると、同被控訴人は、右の注意義務を怠り、とりわけ本件車を後退させるについて、その左側のみを注視し、右側の注視を怠つたため、奥山奈緒美が、右側から、本件車の後退進路に入り込んだのに気がつかず、そのまま後退した結果、本件事故を惹起したもので、本件事故の原因は、同被控訴人の過失にもとづくといわなければならない。

(四)  そうしてみると、同被控訴人は、直接の不法行為者として、被控訴会社は、右不法行為が被控訴会社の事業の執行につきなされたものであるから、同被控訴人の使用者として、損害賠償責任を負わなければならないこと勿論である。

三、損害額について、

(一)  奥山奈緒美の喪失利益の損害

本件で控訴人らは奥山奈緒美は二〇才から五五才まで、稼働による収益の取得が可能であると主張している。

(1)  結婚前の稼働による収益

厚生省大臣官房統計調査部に対する調査嘱託の結果によると昭和三三年当時五才の女子の平均年令が六六、四一才であることが認められ、かつ原審での控訴人奥山昇本人の供述によると被害者奥山奈緒美は生来健康体であること、家庭は中流であり、子供の健康管理も行きとどいていたことが窺われ、また周知のように保健衛生施設が漸次拡充せられ、保健環境が改善されつつある傾向に照らすとき、奥山奈緒美の生存期間は後記認定の稼働可能期間たる五五才を超えるものであるとしなければならない。そして、厚生省大臣官房統計調査部に対する調査嘱託の結果によると、昭和三三年における女子の初婚平均年令は二四、二才であることが認められ、この事実と前記控訴本人の供述によつて窺われる奥山奈緒美の家庭状況などよりすれば、同女の結婚は右の平均年令に達した頃であると一応認めるのが相当である。しかし同女が右結婚までに他に就職して収入を得るものと推認される資料はない。もつとも近時結婚前の女性が結婚するまで就職する事例が、以前より増加しつつある傾向は否定できないけれども、これが結婚前の女性の大部分の通例といえるかどうかは疑問であり、前記控訴本人の供述によつて窺われる家庭状況よりすれば、いわゆる花嫁修業の途を選ぶことも十分予想されるのであつて、就職の蓋然性は肯定できないものといわなければならない。

(2)  結婚後の稼働による収益

控訴人らは奥山奈緒美は結婚後も共稼ぎによつて収益の取得は可能であると主張する。

しかし、奥山奈緒美は結婚前にあつても、就職する蓋然性のないことは前認定のとおりであつて、結婚後共稼ぎをする蓋然性はさらに乏しいものといわなければならない。けだし、近年結婚後共稼ぎをする女性が増加しつつあることは認められるにしても、なお一般的ではなく、例外的なものといわなければならないのであつて、労働大臣官房労働統計調査部に対する調査嘱託の結果によつて明らかな如く、女子労働者の二〇才から二四才までの平均勤続年数が三、五年の短期であることは前認定の女子の初婚平均年令が二四、二才であることと相俟つて、女子が就職中であつても結婚のさいは退職する事例が多いことを示すものである。また共稼ぎ中の主婦であつても、子供が生れてその養育に追われるなどの家庭事情から退職し、長期にわたつて共稼ぎを続ける場合が少いことは前記調査嘱託の結果によつて明らかな如く、女子の平均勤続年数が短期であることからも、首肯できるのである。そして、このことは主婦の内職についても同様であると推察できるのである。従つて、控訴人らの右主張は採用できないものというべきである。

(3)  もつとも女子は結婚後、家事労働に従事するのであるが、右は家庭の消費面を担当するのが通常であつて、これによつて給料ないしは賃金を取得するわけでなく、また一般の生業に就く場合のような稼働可能期間は考えられない。さらに主婦のうちには、農家あるいは商売、家内工業を営む家庭などに嫁し、家事労働のほかに、家業にも従事し生産面の労務に服するものもないではないが、その場合でも、夫婦の協力義務の履行として取扱われ、収入を得ていないのが一般である。勿論主婦のこれらの労働が無価値なものでないのはいうまでもなく、離婚のさいの財産分与、妻の相続権などはこの事情を背景の一つにするものではあるが、この制度によつて得られる財産を以て主婦の労働による収益とすることができないのはいうまでもない。すなわち、主婦の家事労働ないしは家業の手伝いと財産分与または相続による財産取得との間には直接的な因果関係はないのである。従つて、女性が結婚後でも、家事労働あるいは家業に服するからといつて、これを評価して喪失利益の損害とすることはできないのである。

(4)  そうであれば、奥山奈緒美の喪失利益の損害はすべて否定するのほかはないことになるが、一般に被害者が生命を侵害されて稼働能力(生業能力)を喪つたことによる財産的な損害については、喪失利益の損害だけではなく、稼働能力の喪失自体による損害も考えられるのである。このことは、財物、たとえば機械の破壊滅失による損害について、機械の時価に相当する損害と将来機械を使用して得べかりし収入すなわち喪失利益の損害とが考えられるのと同様である。幼年の被害者が女子である場合は、男子と異なり喪失利益の判定は頗る困難であり、むしろ判定の基準となる基礎的条件を欠いているのであるから、稼働能力喪失に基づく損害を喪失利益の損害として捉えるよりも、被害者が成熟したときに取得する稼働能力の喪失自体による財産的な損害として構成する方が合理的である。

この見地に立つときは、幼年の被害者が男子であるか、女子であるかによつて、不合理な区別を生ずることはないし、また女子が結婚するか否かによつて差異を来すこともない。さらに被害者の父母が相続による損害賠償請求をするについても、被害者の稼働可能期間中における生存の要否が問題になることもない。けだし稼働能力には個人差はあつても、男子に比し女子が零ということはありうる筈がないし、また稼働能力の喪失自体による損害は加害行為のときを基準として決せられ、原則として事後の事情によつて左右されることはないからである。また女性が結婚したからといつて稼働能力を失うわけでなく、いつでも必要に応じ、自己の意思によつて稼働能力を働かせ、収益をうることができる点においても女性の結婚は稼働能力喪失自体の損害に影響はないといえるのである。

(5)  この見解に対し、稼働能力の喪失自体の損害は、精神的苦痛と一体的な非財産的損害、あるいは精神的苦痛以外の非財産的損害であるとする反論もありうるであろう。

もちろん稼働能力は人格的な面をもち、一般財物のような交換価格はないが、雇傭ないしは労働契約の形で実質上労働力の売買が行われ、賃金はその対価であるといえる。この点よりすれば、稼働能力の喪失自体による損害は、数理的に算定可能であり、これを財産上の損害とすることは差支えがない(最判、昭和三九、一、二八、参照)。人格的な利益であつても、その侵害により財産上の損害を生ずる場合のあることはいうまでもない(たとえば商人が名誉信用を害され、取引減少の損害を被る場合等。)。もつとも稼働能力の喪失自体による損害は、目に見えるものではないが、これは財産上の損害とされている喪失利益の損害についてもいえることであり、金額の計量が、まるでできない精神的苦痛による損害とは自ら異るものがある。また財物であつても価格の算定に困難なものが相当あるのであるから、算定の困難を以て財産上の損害であることを否定し、非財産的な損害とすることはできない。もつとも稼働能力の喪失により、精神的苦痛ないしは精神的損害を受けることは勿論であるから、慰藉料請求権も当然認められるけれども、これによつて補填されるのは、人間生活を享受することができなくなつたことによる精神的苦痛ないしは精神的損害であるから、その賠償は前記の財産上の損害には及ばないのは当然である。ただ財産上の損害が補填されるときは、精神上の苦痛も緩和されると認められる限度において慰藉料の額に影響を及ぼすことがあるに過ぎないのである。

もし反対論の如く解すると喪失利益の損害を慰藉料によつて賄うのと同様の非難を受けなければならないことになり、損害額の評価が自由裁量とされる便宜はあるにしても、客観性を欠き、損害の公平な分担を目的とする法の趣旨にも副わないものといわなければならない。

(6)  そこで、控訴人らの喪失利益の損害の賠償請求を稼働能力の喪失自体の損害として認容することの可否について考える。

控訴人らの主張する損害額は奥山奈緒美が稼働能力取得後、実際にこれを生業面に働かせ、即ち稼働して得たであろう収益、すなわち喪失利益であるとされているが、右金額を以て、同女が稼働能力取得後、稼働したと仮定した場合に取得するであろう収益を示すものであるとすることもできるのである。そうであれば、これは、とりもなおさず、稼働能力の喪失自体の損害であるといえる。稼働能力喪失自体の損害は勿論、喪失利益の損害も、広い意味では稼働能力の喪失に基づく損害であり、この稼働能力喪失に基づく損害を喪失利益の損害とするか、あるいは稼働能力の喪失自体の損害とするかは、所詮法律構成の仕方の相違であつて、裁判所は当事者の選択した法律構成に拘束されるわけではない。稼働能力の喪失自体による損害がその主張に表示され、しかも稼働能力の喪失に基づく損害の賠償を求めることに変りがない以上、裁判所がこれを喪失利益の損害とみずに、稼働能力の喪失自体による損害として、その請求を認容したからといつて、当事者の申立てない事項について判決した違法があるとすることができないのは勿論、いわゆる弁論主義に反する違法があるともいい難い。(最判、昭和三四、九、二二、参照)

(7)  そこで稼働能力喪失自体の損害について考察する。

前にも触れたように、稼働能力喪失自体の損害額は、雇傭ないしは労働契約における賃金が一応基準となり、稼働可能期間の賃金総額から生活費を控除した純収益がこれにあたるといえる。従つて一般に発表されている女子労働者の諸種の賃金統計表が右認定の有力な資料であることはいうまでもない。勿論稼働能力は人によつて異るし、とくに本件の如き幼年の被害者にあつては、稼働能力の取得は遠い将来のことであるから、正確な算定が困難であることはいうまでもないが、さりとて右統計表から被害者にあまりに控え目な数字をとるときは、後記の生活費の算定と相俟つて、純収益が零またはこれに近い少額となり、実情に添わない結果になるから、被害者が成育後取得するであろう学歴、教養、あるいは性格、健康状態等の諸般の事情を綜合考慮して具体的に妥当な金額の算定に努めるべきはいうまでもない。

この見地から奥山奈緒美の被つた前記損害額を検討するに、昭和三三年当時五才のものの平均年令が六六、四一才であること前記認定のとおりであるから、奥山奈緒美は少くとも控訴人ら主張の二〇才から五五才までは稼働可能と認めるのが相当である。そして前記労働大臣官房労働統計調査部に対する調査嘱託の結果によると昭和三三年における女子の年令別平均月間賃金は、二〇才から二四才までが八、六九〇円、二五才から二九才までが一一、二七七円、三〇才から三四才までが一一、四一五円、三五才から三九才までが一〇、五四〇円、四〇才から四九才までが一〇、四二九円、五〇才から五九才までが一〇、〇四三円であることが認められる。ところで二〇才から五五才まで勤務するとすれば継続勤務による昇格昇給を考慮しなければならないので、この点から右継続勤務期間を二〇才から二四才までの第一期分と二五才から五五才までの第二期分とに分けて考えるに、第一期分の月間八、六九〇円の金額は平均賃金であるから、初任給はこれより低額であるのが一般であるけれども、原審での控訴本人奥山昇の供述によれば、奥山奈緒美は心身共に健やかであり、両親は同女に短大を卒業せしめる意向をもち、その資力家庭状況よりすればその実現の見込は多分にあることが推認できるのであるから、奥山奈緒美の初任給はその学歴、教養、健康状態よりして右の平均賃金を下ることはあるまいと認められる。そして大阪市に対する生活費の調査嘱託の結果によると、昭和三三年三月の大阪市における独身男子一人の月間生活費は八、四五〇円であることが認められる。右は独身男子の生活費であるが、独身女子の生活費はそのつつましい性格からこれを超えないものと認められるし、また大阪市における生活費が全国一般の平均生活費を上廻ることがあつても、それより低額であるとは考えられないから、右金額はむしろ被害者に控え目なものというべきである。よつて、右月間賃金より月間生活費を差引いた純収益を基準として、奥山奈緒美の二〇才から二四才までの総収益額につきホフマン式計算法によつて、年五分の中間利息を控除して本件事故当時の現価を計算すると、七、七九五円となる。つぎに第二期分の二五才から五五才までの分について検討するに、二〇才から勤務してこの時期に至ると勤続年数も重なつて昇格、昇給が無視できないのにかかわらず、右統計表の金額は年令別の平均賃金であつて、これが十分に反映されていないのである。ところで前記労働大臣官房労働統計調査部に対する調査嘱託の結果によると、昭和三三年における女子の勤続年数別月間平均賃金額は、勤続年数五年以上一〇年未満(平均年令二九、九才)が一〇、八一一円、一〇年以上一五年未満(平均年令三四才)が一五、〇四六円、一五年以上二〇年未満(平均年令三七、六才)が一八、七三三円、二〇年以上三〇年未満(平均年令四四、四才)が二〇、一七六円、三〇年以上(平均年令五二、七才)が二三、二六四円であることが認められる。この二つの統計表を対比して考察すると、第二期分の月間賃金はこの期間における前記年令別平均賃金のそれぞれをさらに平均した一〇、七三八円をはるかに超えるものであることが推察できるのである。そしてこの期間における、稼働に必要な生活費も、年数の経過に伴い第一期分よりは増加するであろうが、右勤続年数による賃金の増加率に及ばないものと考えられるので、前認定の月八、四五〇円を基準として、前認定の賃金額月一〇、七三八円よりこれを控除した残額二、二八八円を以て月間純収益としても差支えがないものと考える。そこでこれを基準として、奥山奈緒美の二五才から五五才までの純収益を、ホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除して本件事故当時の現価を計算すると三一八、一〇二円になる。

そして右金額に、さきに認定した第一期分の純収益七、七九五円を加算した三二五、八九七円を以て、奥山奈緒美が稼働能力の喪失によつて被つた損害であると認めるのが相当である。

(8)  控訴人らは、女性は結婚によつて夫の扶養を受けるのであるから、結婚後の生活費は、損害額の算定につき考慮すべきではないと主張する。しかし、女性は結婚したからといつて、常に夫から一方的に扶養を受ける地位が保障されているわけではない。夫婦は互に協力扶助すべきものとされ、その扶助ないし扶養は相互的であり、また夫婦の生活費は、いわゆる婚姻費用の分担として、その資産、収入その他一切の事情を考慮して分担すべきものとされているのであつて、夫婦共稼ぎのように妻が稼動能力を生業面に使用して収入を得ているときは、夫婦の生活費は、夫のみが負担することにはならないのである。ただ一般の家庭では、相互の協定により妻が家事労働にのみ服するかわりに、生活費は夫のみの負担と定められているだけであつて、稼働能力を全く有しない未成熟児が専ら親の扶養にのみ依存し、生活費を負担しない場合と異ることはいうまでもなく、既婚の女性であつてもその生活費は自己において負担すべきものであることに変りはないのである。

そうであるから、一般的にみて、女性も男性と同様未婚であると既婚であるとを問わず不法行為によつて死亡し、稼働能力喪失の損害を被るときは、その反面稼働能力の根源たる生命を維持するために必要な生活費を免れることになり、利益を生ずることは当然であつて、右の利益は損益相殺の法理に従い右の損害額より控除すべきものとしなければならない。従つて、控訴人らの右主張は採用できない。

(二)  控訴人らの慰藉料請求について

(1)  被控訴人は奥山奈緒美の喪失利益の損害賠償請求が理由ありとされるときは慰藉料請求部分を認容した原判決に対し附帯控訴する旨申立てている。喪失利益の損害賠償請求が理由があるか、どうかは審理の経過によつて自ら明らかになることであるから、かかる予備的附帯控訴の申立が適法であることは、予備的反訴の場合と同様である。そしてこれによる不服申立の範囲の最大限は原判決の慰藉料請求認容部分を取消し、この点に関する控訴人らの請求棄却の判決を求める趣旨と解すべきである。もつとも当裁判所は奥山奈緒美の稼働能力喪失による喪失利益の損害を稼働能力喪失自体の損害と判定したこと前記のとおりであるが、被控訴人の予備的附帯控訴による不服申立はかかる場合をも含むものと解すべきはいうまでもないから、この見解の下に以下慰藉料請求の当否について判断する。

(2)  控訴人らが奥山奈緒美の父母として、同女の事故死により甚大な精神的苦痛を受けたことはいうまでもないので、その慰藉料額について審究する。

成立に争のない甲第一号証、原審での控訴人ら本人の各供述によると控訴人方は写真材料の販売を営む中流の家庭であり、子供は奥山奈緒美とその弟の徹(昭和三〇年二月一八日生)の二人きりで、控訴人らは奈緒美がその愛護の下に健康に育ち、昭和三三年四月から幼稚園に入園するのを特に楽しみにしていたことが認められ、他方成立に争のない甲第六号証、同第二九号証の二、原審証人駿河幹雄の証言、原審での被控訴人山口兼治本人の供述を綜合すると、被控訴会社は現在六億六、〇〇〇万円の資本金を有し、大規模な土木建築請負を営む会社であること、奥山奈緒美の葬儀の日同会社から一〇、〇〇〇円の香典が贈られていること、被控訴会社は控訴人らに対し慰藉料一五〇、〇〇〇円を支払つて示談しようと考え、控訴人らとの話合いを求めたほか、昭和三三年四月には、ひとまず被控訴人山口兼治をして大阪簡易裁判所に調停の申立をさせたが不調に終つたこと、ならびに被控訴人山口兼治は本件事故の刑事責任を問われ、罰金一〇、〇〇〇円に処せられたほか、一〇〇日間運転免許停止の行政処分を受けたことが認められる。右のほか、前認定の被控訴人山口兼治の過失の程度その他本件事故の態様等を綜合して考慮するとき、控訴人らに対する慰藉料の額はそれぞれ四〇〇、〇〇〇円が相当であると認める。

(三)  控訴人らの積極的損害について

控訴人ら主張の診察料、葬儀費用等に関する損害四一、三〇〇円は、稼働能力喪失による損害とともに財産上の損害に属することはいうまでもないが、前者は本件事故により控訴人らが支払を余儀なくされて、直接被つた自己の損害であるのに対し、後者は奥山奈緒美が被つた損害であり、控訴人らは相続によりその賠償請求権を承継したものであるから、両者訴訟物を異にすることは、いうまでもない。そして、原判決は前者の損害の賠償請求についてはその全部を認容したのであつて、控訴人らの控訴はこの部分を不服申立の対象とするものでないことは弁論の全趣旨に照して明らかである。また被控訴人らの附帯控訴もこの部分を不服申立の対象としていないことは明らかであるから、控訴人らの積極的損害の賠償請求に関する部分は当審における審理の範囲外であるとしなければならない(もつとも、訴訟物が同一であると仮定しても、本件のように各請求の範囲が明確に特定しているような場合は同一に帰着するであろう。)。従つて控訴人ら主張の積極的損害が、控訴人ら両名の損害であるのか、あるいは控訴人奥山昇だけの損害であるかという点については疑義がないではないが、この点の判断はしない。

(四)  被控訴人らは本件事故につき奥山奈緒美にも過失があつたとして、過失相殺を主張しているので、この点について判断する。

過失相殺の適用される被害者は未成年者であつても、事理を弁識するに足る知能があれば足り、責任能力を必要としないと解するのが相当であるが(最判、昭和三九、六、二四、参照)、どの程度の知能があり、どの程度の年令になればこれが肯定できるかということは一概にはいえないのであつて、要は具体的な事情に即して社会通念によつて決するのほかない。

本件事故は、前認定のように奥山奈緒美が遊び友達の重山美和子と一緒に大阪港線道路の北側歩道を東に向つて進み、右道路と丁字型に交叉する無名道路を東に横断しようとしたさい、被控訴人山口兼治の運転するダンプカーの後退に気付かなかつたために生じたものであるが、前顕甲第二一号証の一、原審並当審検証の結果原審証人満仲利雄の証言(一回)によると、大阪港線道路は市電、自動車の往来頗る頻繁であるが、無名道路はその北方三〇米位の処が盛土のため運行不能となつていたため、大阪港線道路より無名道路に出入りする大型自動車は殆んどなく、僅かに、弥生市場に出入するものと思われる小型貨物自動車、オートバイの類をときどき見かけるに過ぎない状況であり、かつこの交叉点の事故現場はまた大阪港線道路北側歩道を通行するものにとつては横断歩道にあたり、歩行者の安全確保が要請される箇所にあたることが認められるのであつて、本件事故現場は誰もが交通の危険を感じ注意を喚起するような場所であるとはいい難いのである。しかのみならず、ダンプカーの如き大型車は勿論一般の自動車でも、その前進にはすぐ気付くか、後退は警笛の吹鳴等特別の注意喚起方法がとられない限りとかく停止中あるいは停止直前と誤認されがちであることを考慮に入れるとき、本件事故当時五才一〇箇月に過ぎなかつた奥山奈緒美(友達の重山美和子も同年配であること成立に争のない甲第二四号証で明らかである)が前認定の如く静かに後退するダンプカーに危険を感じこれを避けるため適当な行動に出る知能を有していたものとは認め難い。このことは奥山奈緒美が平素両親から自動車の危険を教えられ、車道に立入らないよう注意されていたことによつて左右されない。

そうであるから奥山奈緒美は本件事故発生につき交通の危険を弁識するに足る知能を有していなかつた点において、被害者に過失あるものとしてこれを斟酌することができないのであつて、この点に関する被控訴人の主張は採用し難い。

なお、原審証人重山栄作の証言ならびに原審での控訴人ら各本人の供述によると、本件事故当時最初重山美和子が奥山奈緒美のところへ遊びに来、ついで美和子のところへ行くといつて二人連立つて遊びに出たのであり、重山方は歩道伝いに半町位しか離れておらず、始終往き来していたものであることが認められるから、控訴人らに奈緒美の後を追つて監視することまで期待するのは無理であるし、またこの年頃の子供を屋外に遊びに出さないようにすることも無理であるから、監護義務者たる控訴人らにも過失はないものといわなければならない。

四、被控訴会社は、被控訴人山口兼治の選任監督について相当の注意をしたから、使用者責任はないと主張する。しかし本件に顕われた全証拠によるも右事実を肯認することはできないから、右主張は採用できない。

五、以上の次第で、控訴人らの請求しうる損害額は、(1) 奥山奈緒美の稼働能力喪失の損害三二五、八九七円につき、二分の一宛の割合で相続した各一六二、九四九円、(2) 慰藉料各四〇〇、〇〇〇円となり、これに当事者に不服のない原判決認容の積極的損害四一、三〇〇円の二分の一宛の二、六五〇円宛をそれぞれ加算すると、各五六五、五九九円となる。

従つて、被控訴人らは各自控訴人らに対し各五六五、五九九円及びこれに対する本件不法行為後である昭和三三年四月六日(被控訴会社に対する訴状送達の翌日)から完済に至るまで、年五分の民事法定利率による遅延損害金を支払わなければならない筋合いとなるから、これと異る原判決を変更し、被控訴人らの附帯控訴を棄却すべきものとする。

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、九三条、九二条、八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 金田宇佐夫 日高敏夫 山田忠治)

更正決定

主文

判決書二枚目表三行目「いずれも金五六五、五九九円」とあるを「いずれも金五八三、五九九円」と

同書二九枚目表一〇行目「二、六五〇円」とあるを「二〇、六五〇円」と

同一一行目「各五六五、五九九円」とあるを「各五八三、五九九円」と

同一二行目「各五六五、五九九円」とあるを「各五八三、五九九円」と

それぞれ更正する。

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